石舟の白帆は風を孕んで、壮大な三角洲の白砂と水とに照り明つて、かげつて、通り過ぎる。低く、また、ひろびろと相隔たつた両岸の松と楊《やなぎ》と竹藪と、さうして走る自転車の輪の光。
白帝城は絶勝の位置にある。
私は更に俯瞰して、二層目の入母屋の甍[#「甍」は底本では「薨」]に、ほのかに、それは奥ゆかしく、薄くれなゐの線状の合歓《ねむ》の花の咲いてゐるのを見た。樹木の花を上からこれほど近く親しく観ることは初めてである、いかにも季節は夏だと感じられる。
絶壁の上の楓の老樹も手に届くばかりに参差と枝を分ち、葉を交へて、鮮明に、澄んで閑かな、ちらちらとした光線である。
幾百年と経つた大木の樟は樹皮は禿げ、枝[#「枝」は底本では「技」]は裂けていい寂色に古びてゐる。その梢の群青を鴉がはたはたと動かして留《と》まる。かをォかをォである。
古風な白帝城。
水道の取入口は河に臨んで、その城の絶壁の下にあつた。
私たちは城を降りると、再び暑熱と外光の中の点景人物となつた。ひらひらと、しきりに白い扇が羽ばたき出した。
公園からだらだらの坂を西谷の方へ、日かげを選み選み小急ぎになると、桑畑の
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