沫、飛沫。奔流しつつ、飛躍しつつ、擾乱しつつだ。
一面淙々たり。
「や。」
「赤岩です。」とM君。
まさしく瑠璃の、群青の深潭を擁して、赤褐色の奇巌の群々がくわつと反射したところで、しんしんと沁み入る蝉の声がする。
稚い雌松の林があり、こんもりした孟宗藪がある。藪の外にはほのぼのとした薄くれなゐの木の花も咲いてゐる。
「あれは何の花だね。」
「漆の花だなも。」で、巧に棹を操る舳の船頭である。白の饅頭笠に墨色鮮かに秀山霊水と書いてある。
そのあたりが栗栖の里。
と、書き落したが、その漆の花が眼に入るまでには石床の大きなでこでこの二つの岩、お富与曾松の岩といふのがあつた。恋は悲しい、遂に添はれぬ身の果を歎いて、お富もまた離ればなれに上の手の岩から身を躍らしたと俚俗にいふ。
「これがローレライで。」
ローレライはちと苦笑される。
新赤壁は左にあつた。その前を昔の中仙道が通つて、ひとつ※[#「虫+廷」、第4水準2−87−52]ると岩屋観音がある。白い汚れた幟が見える。
ここで再び蕭々たる急湍にかかる。観音の瀬である。
「まだひどい水で。」と前のがのめる。
やつとのことで、その
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