日本ライン
北原白秋

−−
【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)榜《こ》ぐ

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)相|間《まじ》はり

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
   (数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数)
(例)※[#「虫+廷」、第4水準2−87−52]る
−−

    1

 舟は遡る。この高瀬舟の船尾には赤の枠に黒で彩雲閣と奔放に染め出したフラフが翻つてゐる。前に棹さすのが一人、後に櫓を榜《こ》ぐのが一人、客は私と案内役の名鉄のM君である。私は今日初めて明るい紫紺に金釦の上衣を引つかけてみた。藍鼠の大柄のスボンの、このゴルフの服は些か華美過ぎて市中は歩かれなかつた。だが、この鮮麗な大河の風色と熾烈な日光の中では決して不調和ではない。私は南国の大きい水禽のやうに碧流を遡るのだ。
 爽快である。それに泡だつコップのビール、枝豆の緑、はためく白いテントの反射光だ。
 五日の午後一時、昨日すさまじい濁流はいくらか青みを冴え立たして来たが、一旦激増した水量はなかなかひきさうに見えない。だが、裸
次へ
全18ページ中1ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
北原 白秋 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング