の子供が飛び込む飛び込む。燦々たる岩の群とごろた石との河原だ。その両岸のいきるるいきるる雑草の花だ。
 泳げよ泳げ。
 左は楊と稚《わか》松と雑木の緑と鬱とした青とで野趣そのままであるが、遊園地側の白い道路は直立した細い赤松の竝木が続いて、一二の氷店や西洋料理亭の煩雑な色彩が畸形な三角の旅館と白い大鉄橋風景の右袂に仕切られる。鉄橋を潜ると、左が石頭山、俗に城山である。その洞門のうがたれつつある巌壁の前には黄の菰莚《むしろ》、バラック、鶴嘴、印半纒、小舟が一二艘、爆音、爆音、爆音である。
 と、それから、人造石の樺と白との迫持《せりもち》や角柱ばかし目だつた、俗悪な無用の贅を凝らした大洋館があたりの均斉を突如として破つて見えて来る。
「や、あれはなんです。」
「京都のモスリン会社の別荘で。」とM君が枝豆をつかむ。
「悪趣味だな。」
 だが、ここまでである。それより上は全くの神斧鬼鑿の蘇川峡となるのだ。彩雲閣から僅に五六丁足らずで、早くも人寰を離れ、俗塵の濁りを留めないところ、峻峭相連らなつて少からず目を聳たしめる。いはゆる日本ラインの特色はここにある。
 日は光り、屋形の、三角帆の、赤の
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