うして兼山から伏見、伏見から広見、今渡とかつ飛ばすのである。
土田は名鉄の犬山口から分岐する今渡線の終点に近い。ちらとその駅をのぞいて、また右へ、ライン遊園地へ向けて、またまた驀進々々々々である。行けるところまで行つて、危ふく何かにぶつかりさうにして留ると、奇橋がある。「土田《どた》の刎橋《はねばし》」である。この小峡谷は常に霧が湧き易くて、罩めると上も下も深く姿を隠すといふ。重畳した岩のぬめりを水は湍《たぎ》ち、碧く澄んで流れて、謂ふところの鷺の瀬となる。
橋の袂で敷島を買つて、遊園地の方へほつりほつりと私たちは歩いてゆく。雨はあがりかけて日の光は微かに道端の早稲の穂に射しかけて来る。七夕の紅や黄や紫の色紙がしつとりと濡れにじんで、その穂や桑の葉にこびりついてゐる。死んだ螢のにはひか何かが咽んで来る。開けつぱなしの小舎がある。蚕糞や繭のにほひがする。莚が雑然と積んである。表に「自転車無料であづかります」と貼札してある。この道七八丁。
安壮なる北陽館の前に出る。二階の渡り廊下の下の道路を裏へ抜けると、ここに驚くべき大洞可児合の壮観が眼下に大渦巻を巻き騰《あ》げる。断崖百尺の上の、
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