何ものか、背後《うしろ》には擽《こそば》ゆし、繪艸紙の古ぼけし手觸《てざはり》にや、
なにごとの可笑《をかし》さぞ。
數多《あまた》の若き漁夫《ロツキユ》と着物《きもの》つけぬ女との集まりて、
珍らしく、恐ろしきもの、
そを見むと無益にも靈《たまし》動かす。
柔らかき乳房もて頭《かうべ》を厭され、
幼兒は怪しげなる何物をか感じたり。
何時《いつ》までも何時までも、五月蠅《うるさ》く、なつかしく、やるせなく、
身をすりつけて女は呼吸《いき》す、
その汗の臭《にほひ》の強さ、くるしさ、せつなさ、
恐ろしき何やらむ背後《うしろ》にぞ居れ。
なにゆゑに人々《ひと/″\》の笑ひつる、
われは知らず、
え知る筈なし、
そは稚き三歳の日のむかしなれば。
暑き日なりき、
物音もなき鹹河《しほがは》の傍《そば》のあかるき眞晝なりき。
蒸すが如き幼年の恐怖《おそれ》より
尿《いばり》しつつ…………われのただ凝視《みつ》めてありし
赤き花、小さき花、目に痛《いた》き石竹の花。
幽靈
覺醒《めさ》むれば
しんしんと水の音《ね》近し、
わが乳母の心音《しんのん》かそは
夜《よ》は暗く……耳鳴
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