あかき林檎
いと紅き林檎の實をば
明日《あす》こそはあたへむといふ。
さはあれど、女の友は
何時《いつ》もそを持ちてなかりき。
いと紅き林檎の實をば
明日こそはあたへむといふ。
恐怖
乳母なれどわれは恐れき。
夜も晝も『和子よ。』と欷歔《さぐ》り、
『骨だちぬ。』われを『死なば。』と、
母よりも激しき愛に、
抱擁《だきし》めつ。――『かなし。』とばかり。
乳母なれど、せちに恐れき。
執着《しふちやく》よ、臨終《いまは》の刹那、
涙なき老《おい》の眼《まなこ》は、
母よりも激しき愛に
我みつめ――青く白みき。
乳母なれど、いまも恐れぬ。
疑問《うたがひ》に悲しみ亂れ、
わが泣けば馴寄《なよ》り水|如《な》し、
『吾子《あこ》よ、吾《あ》ぞ。」(夜は二時ならし。)
『汝《な》が母。』と――青き顏しぬ。
乳母の墓
あかあかと夕日てらしぬ。
そのなかに乳母と童と
をかしげに墓をながめぬ。
その墓はなほ新らしく、
畑中の南瓜の花に
もの甘くしめりにほひき。
乳母はいふ、『こはわが墓』と、
『われ死なばここに彫りたる
おのが名の下闇《したやみ》にこそ。』
三歳
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