。さくらびと
月の大路《おほぢ》へ戸を出でぬ。
燈《ひ》あかき街《まち》の少女らは
車かこめり、
川のふち
霧美くしうそぞろぎぬ。

美《よ》き人なりき、花ごろも
かろく被《かつ》ぎて、――母ぎみの
乳の香《か》も薫《く》ゆり、――薔薇《ばら》のごと
われをつつみぬ。
ひとあまた、
あとの車もはなやぎぬ。

いづれ、月夜の花ぐるま、
憂《う》き里さりて、野も越えて、
常《とこ》うるはしき追憶《おもひで》の
國へかゆきし。――
稚子《ちご》なれば
はやも眠りぬ、その膝に。


 身熱


母なりき、
われかき抱き、
ザボンちる薄き陰影《かげ》より
のびあがり、泣きて透《す》かしつ、
『見よ、乳母の棺《ひつぎ》は往《ゆ》く。』と。

時に白日《ひる》、
大路《おほぢ》青ずみ、
白き人|列《つら》なし去んぬ。
刹那《せつな》、また、火なす身熱、
なべて世は日さへ爛《たゞ》れき。

病むごとに、
母は歎きね。
『身熱に汝《な》は乳母焦がし、
また、JOHN よ、母を。』と。――今も
われ青む。かかる恐怖《おそれ》に。


 梨


ひと日なり、夏の朝凉《あさすゞ》、
濁酒《にごりざけ》賣る家《
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