泣いた年増《としま》がなつかしや。


 カステラ


カステラの縁《ふち》の澁さよな、
褐色《かばいろ》の澁さよな、
粉《こな》のこぼれが眼について、
ほろほろと泣かるる。
まあ、何とせう、
赤い夕日に、うしろ向いて
ひとり植ゑた石竹。


 散歩


過ぎし日のおもひでに
植物園を歩行《ある》けば、
霜白く、薄黄《うすぎ》水仙の芽も青く、
鳴く鳥すらもほのかなれや、佛蘭西の赤靴…………

骨牌《トランプ》のこころもちに
クロウバのうへをゆけば
朝はやく、あるかなきかの香《か》も痒《かゆ》く、
鳴く蟲すらもほのかなれや、佛蘭西の赤靴…………

かの蒼白《あおじろ》き年増《としま》を
恐れて、そつと歩めば、
日は光り、いまだ茴香《うゐきやう》の露も苦《にが》く、
鳴くこころすらもほのかなれや、佛蘭西の赤靴…………


 隣りの屋根


夕まぐれ、たれこめて珈琲のにほひに噎《むせ》び、
古ぼけし和蘭陀自鳴鐘《おらんだとけい》取りおろし拭きつつあれば
黄に光るザボンの實ぽつかりと夕日に浮び、
黒猫はひそやかにそのかげをゆく…………
あたたかき足跡のつづきゆく瓦の塵よ。
風重きかの屋根に香《
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