》を刺すこころ、
やるせない夏の眞晝のその手つき。

つかれと、かなしみと、ものおもひ、
官能の欲《よく》…………
こころにくいほど落ちついて
しんみりと刺す盲人《めくら》の手。

過ぎし日は鍼醫《はりい》の手凾。
天鵝絨《びらうど》の紫の凾、
柔かに手を觸れて、なつかしく、
パツチリと閉《し》めた凾、舶來の凾、
 註。Sori−batten.   然しながら。方言。阿蘭陀訛?
   Gonshan.      良家の娘。柳河語


 陰影


なつかしき陰影《いんえい》をつくらんとて
雛罌粟《ひなげし》はひらき、
かなしき疲れを求めんとて
女は踊る。

晴れやかに鳴く鳥は日くれを思ひ、
蜥蜴《とかげ》は美くしくふりかへり、
時計の針は薄らあかりをいそしむ…………

捉《とら》へがたき過ぎし日の歡樂《くわんらく》よ、
哀愁《あいしゆう》よ、
すべてみな、かはたれにうつしゆく
薄青きシネマのまたたき、
いそがしき不可思議のそのフィルム。

げにげにわかき日のキネオラマよ、
思ひ出はそのかげに伴奏《つれひ》くピアノ、
月と瓦斯との接吻《キス》、
瓏銀《ろうぎん》の水をゆく小舟。

なつかし
前へ 次へ
全140ページ中75ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
北原 白秋 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング