すれば
内部《うちら》なる耶蘇の龕《みづし》にひとすぢの香《かう》たちのぼる。
街《まち》をゆき、透かし見すれば
日の眞晝ものの靜かにほのかにも香たちのぼる。

 五十九

薄青き齒科醫《しくわい》の屋《いへ》に
夕日さし、
ほのかにも硝子は光る。
あはれ、女、
その戸いでていづちにかゆく…………
黄なる陽《ひ》に汝《な》を見れば
われもまたほの淡き齒痛《しつう》をおぼゆ。

 六十

あはれ、あはれ、
灰色の線路にそひ、
ひとすぢの線路にそひ、
今朝《けさ》もまた辿りゆく淺葱服《あさぎふく》のわかき工夫、
汝《なれ》もまた路のゆくてに
青き花をか求むる、
かなしき長きあゆみよ。

 六十一

新詩社にありしそのかみ、
などてさは悲しかりし。
銀笛を吹くにも、
ひとり路をゆくにも、
歌つくるにも、
などてさは悲しかりし。
をさなかりしその日。
[#改頁]


過ぎし日
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 ※[#「さんずい+自」、第3水準1−86−66、92−1]芙藍


罅《ひゞ》入りし珈琲碗《カウヒわん》に
※[#「さんずい+自」、第3水準1−86−66、92−3]芙藍《さふらん》のくさを植ゑたり。

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