蝉も鳴く、ひと日ひねもす、
『かなし、かなし、ああかなし、今日《けふ》なほひとり。』
二十七
そを思《も》へばほのかにゆかし。
かの古りし朱塗《しゆぬり》のうつは、
そがなかに薫《くゆ》りにし
馬尼拉《マニラ》煙草《たばこ》よ。
いつの日のゆめとわかねど。
二十八
あはれ、あはれ、すみれの花よ。
しをらしきすみれの花よ。
汝《な》はかなし、
色あかき煉瓦の竈《かま》の
かげに咲く汝《な》はかなし。
はや朝明《あさあけ》の露ふみて
われこそ今し
妹《いもうと》の骨ひろひにと來しものを。
二十九
青梅に金《きん》の日光り、
地は濡れて鈴蟲鳴く。
日暮らしの日暮らしの雨の絶間《たえま》に、
いつしらず鈴蟲鳴く。
三十
あはれ、さはうち鄙《ひな》びたる
いはけなき玉乘の子が危《あぶ》なげに足にあはせて、
かすかにも彈き鳴らす※[#「ヰに濁点」、面区点番号1−7−83、64−4]オロン彈《ひ》きの少女。
三十一
いまもなほ
ワグネルのしらべに
日をひと日浮身をや窶《やつ》したまへる。
かなしきは女ぞかし。
離《さか》り來て野邊《のべ》におもへば
露くさの花の色だ
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