に育つた私はかうして不思議にも清らかな清教徒《ピユリタン》としての少年期を了つた。
尤もその僞善的な傾向も長くはなかつた、無意識に壓迫された本然の性情は何時の間にか新らしい反抗の炎を上げた。その苦しい前後に當つて私は激しい神經の衰弱をおぼえた、さうしてただひとり靜かに瞑想し思索する病的な夜の鳥の心になつた。さうして私の少年期の了るころ、常に兄弟のやうに親しんだ友人の一人は自刄して遂にその才氣煥發だつた短い一生の最後を自分の赤い血潮で華やかに彩どつて、たんぽぽのさく野中のひとすぢ道を彼の墓場へ靜かに送られて行つたのである。殘された私はまた陰鬱な、そのなかにいらいらとした赤い戲奴《ヂヤウカア》のやうな心を閃めかす氣の短い感情の激しい二十歳の生活に入つた。さうして若鷲の巣立ちを思はせるやうに忙たゞしく東京をさして上つた。
10
私が十六の時、沖《おき》ノ端《はた》に大火があつた。さうしてなつかしい多くの酒倉も、あらゆる桶に新らしい金いろの日本酒を滿たしたまま眞蒼に炎上した。白い鵞のゐた瀦水、周圍の清らかな堀割、泉水、すべてが酒となつて、なほ寒い早春の日光に泡立つては消防の刺子《
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