めて放尿してゐる、おつとりとした懷かしい風俗を畫いたものであつた。私はそのかげで毎夜美くしい姉上や肥滿《ふと》つた氣の輕るい乳母と一緒に眠るのが常であつた。
頑固で、何時もむつつりした、舊い家から滅多に外へも出た事はなく、流行唄のひとつすら唄へなかつた私の父にも矢張り氣まぐれな道樂はあつた。あの陰氣な稻荷の巫女《みこ》や、天狗使ひや、(A+B)2[#「2」は上付き小文字] ………などの方程式で怪しい占ひをした漂浪者や、護摩《ごま》を焚く琵琶法師やを滯留さしては、いろいろな不思議を信じた行爲の閑暇《ひま》にはまた七面鳥を朱欒《ザボン》のかげに放ち、二三百の白い鉢に牡丹を開かせ、鷄を飼ひ、薔薇を植ゑる事を忘れなかつた。さうして樣々に飽きはてては年毎にその對手を替へた。鷄を鵞に替え、朝顏のために前の薔薇を根こそぎ棄てて了つた。さうして遂にはちゆうまえんだ[#「ちゆうまえんだ」に傍点]に豚小屋まで設けたほど、凡てが投げやりであつた。
私はまた五島平土《ごとうひらど》の船頭衆から長崎や島原の歌も聞いた。年の師走には市が立つてそれらの珍客を載せた大船はいつも四十艘五十艘と港入りした。酒造《さけ
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