も驚かされたことがある。外《そと》には三味線の音《ね》じめも投げやりに、町の娘たちは觀音さまの紅い提燈に結びたての髪を匂はしながら、華やかに肩肌脱ぎの一列《いちれつ》になつてあの淫らな活惚《かつぽれ》を踊つてゐた。取り亂した化粧部屋にはただひとり三歳《みつつ》四歳《よつつ》の私が匍《は》ひ※[#「廴+囘」、第4水準2−12−11、XXXVII−10]《まは》りながら何ものかを探すやうにいらいらと氣を焦《あせ》つてゐた。ある拍子に、ふと薄暗い鏡の中に私は私の思ひがけない姿に衝突《ぶつつ》かつたのである。鏡に映つた兒どもの、面《つら》には凄いほど眞白《まつしろ》に白粉《おしろひ》を塗《ぬ》つてあつた、睫《まつげ》のみ黒くパツチリと開《ひら》いた兩《ふたつ》の眼の底から恐怖《おそれ》に竦《すく》んだ瞳が生眞面目《きまじめ》に震慄《わなな》いてゐた。さうして見よ、背後《うしろ》から尾をあげ背《せ》を高めた黒猫がただぢつと金《きん》の眼を光らしてゐたではないか。私は悸然《ぎよつ》として泣いた。
私の異國趣味は穉い時既にわが手の中に操《あやつ》られた。菱形の西洋凧を飛ばし、朱色《しゆいろ》の面《
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