外面《うはべ》に取すまして廢れた面紗《おもぎぬ》のかげに淫《みだ》らな秘密を匿《かく》してゐるのに比ぶれば、凡てが露《あらは》で、元氣で、また華《はな》やかである。かの巡禮の行樂、虎列拉《コレラ》避《よ》けの花火、さては古めかしい水祭の行事などおほかたこの街特殊のものであつて、張のつよい言葉つきも淫らに、ことにこの街のわかい六騎《ロツキユ》は温ければ漁《すなど》り、風の吹く日は遊び、雨には寢《い》ね、空腹《ひもじ》くなれば食《くら》ひ、酒をのみては月琴を彈き、夜はただ女を抱くといふ風である。かうして宗教を遊樂に結びつけ、遊樂の中に微かに一味の哀感を繼いでゐる。觀世音は永久《とこしへ》にうらわかい街の處女に依て齋《いつ》がれ(各の町に一體づつの觀世音を祭る、物日にはそれぞれある店の一部を借りて開帳し、これに侍づくわかい娘たちは参詣の人にくろ豆を配《くば》り、或は小屋をかけていろいろの催《もよふし》をする。さうしてこの中の資格は處女に限られ、縁づいたものは籍を除かれ、新らしい妙齡《としごろ》のものが代つて入る。)天火《てんび》のふる祭の晩の神前に幾つとなくかかぐる牡丹の唐獅子《からしし》の
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