大提燈は、またわかい六騎《ロツキユ》の逞ましい日に燒けた腕《かひな》に献げられ、霜月親鸞上人の御正忌となれば七日七夜の法要は寺々の鐘鳴りわたり、朝の御講に詣《まう》づるとては、わかい男女《をとこをんな》夜明まへの街の溝石をからころと踏み鳴らしながら御正忌|参《めえ》らんかん…………の淫らな小歌に浮かれて媾曳《あひゞき》の樂しさを佛のまへに祈るのである。
沖《おき》ノ端《はた》の寫眞を見る人は柳、栴檀、櫨などのかげに、而も街の眞中《まんなか》を人工的水路の、水もひたひたと白く光つては芍藥の根を洗ひ洗濯女の手に波紋を畫く夏の眞晝の光景に一種のある異國的情緒の微漾を感ずるであらう。あの水祭はここで催され藍玉《あいだま》の俵を載せ、或は葡萄色の酒袋を香《にほひ》の滴るばかり積みかさねた小舟は毎日ここを上下する。正面の白壁はわが叔父の新宅であつて、高い酒倉は甍の上部を現はすのみ。かうして、私の母家はこの水の右折して、終に二條の大きな樋に極まり、渦を卷いて鹹川に落ちてゆくその袂から、是に左したるところにある。
今は銀行となつたが、もとはやはり姻戚の阿波の藍玉屋《あいだまや》の生鼠壁《なまこかべ
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