ろ》がされし酒桶《さかをけ》のなかに入りて、
風味《ふうみ》よき日光を浴《あ》び、
絶えず白きザボンの花のちるをながめ、
肌さはりよきかの酒の木香《きが》のなかに日くるるまで、
わが友よ、
けふもまた舶來のリイダアをわれらひらき、
珍らしき節《ふし》つけて『鵞鳥はガツグガツグ』とぞ、そぞろにも讀み入りてまし。


 アラビアンナイト物語


鳴いそな鳴いそ春の鳥。
菱《ひし》の咲く夏のはじめの水路《すゐろ》から
銀が、みどりが………顫へ來て、
本の活字《くわつじ》が目に沁みる。

鳴いそな鳴いそ春の鳥。
赤い表紙の手ざはりが
狂氣《きやうき》するほどなつかしく、
けふも寢てゆく舟の上。

鳴いそな鳴いそ春の鳥。
葡萄色した酒ぶくろ、
干しにゆく日の午後《ひるすぎ》に
しんみりと鳴る、櫓の音が………

鳴いそな鳴いそ春の鳥。
ネルのにほひか、酒の香か、
舟はゆくゆく、TONKA JOHN
魔法つかひが金の夢。
 註 酒を搾り了れるあとの濕りたる酒の袋を干しにとて、日ごとにわが家の小舟は街の水路を上りて柳河の公園の芝生へとゆく。わが幼時の空想はまたこの小舟の上にて思ふさまその可憐なる翅をば
前へ 次へ
全140ページ中106ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
北原 白秋 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング