《あか》るさよ、
淺艸の馬道。
小兒と娘
小兒《こども》ごころのあやしさは
白い小猫の爪かいな。
晝はひねもす、乳酪《にゆうらく》の匙《さじ》にまみれて、飛び超えて、
卓子《てえぶる》の上、椅子の上、ちんからころりと騷げども、騷げども、
流石《さすが》、寢室《ねべや》に瓦斯の火のシンと鳴る夜は氣が滅入ろ…
いつか殺したいたいけな青い小鳥の翅《はね》の音。
娘ごころのあやしさは
もうせんごけの花かいな。
いつもほのかに薄着《うすぎ》してしんぞいとしう見ゆれども、
晝が晝なか、大《だい》それた強《きつ》い魔藥《まやく》に他《ひと》こそ知らね、
赤い火のよな針のわな千々《ちゞ》に顫《ふる》えて蟲を捕《と》る、蟲を捕る。
なんぼなんでも殺生《せつしやう》な、夜《よる》は夜《よる》とてくらやみに。
青い小鳥
知らぬ男のいふことに、
青い小鳥よ、樫《かし》の木づくり、わしの寢床《ねどこ》が見馴れたら
せめて入日につまされて鳴いておくれよ、籠の鳥、
牛乳《ちち》が好《す》きなら牛乳《ちち》飮まそ、
野芹《のぜり》つばなも欲《ほ》しかろがわしの身體《からだ》ぢやままならぬ。
何がさみしいカナリヤよ、
――よしやこの身が赤い血吐いていまに死なうとそなたは他人。
じつと默《つぐ》んだ嘴《くちばし》にケレオソートが沁むかいな。
死んだ娘のいふことに、
青い小鳥よ、擔荷《たんか》の上のわしの姿が見えぬとて
ひとの涙のうしろからちらと鳴くのか、籠の鳥、
弔《くや》むそなたの眞實《しんじつ》は
金の時計か、襟どめか、惜しい指輪の玉であろ。
何がかなしいカナリヤよ、
――よしやこの身が解剖《ふわけ》をされて墓へかへろとそなたは他人。
やつといまごろ鳴いたとて死んだ肌《はだへ》がなんで知ろ。
わしの從兄弟《いとこ》がいふことに
青い小鳥よ、樫の木づくり、おなじ寢どこに三人《みたり》まで
死ぬる命の贐《はなむけ》に鳴いて暮らすか、籠の鳥、
ケレオソートにや馴染《なじ》みもしよが、
いつも馴染まぬ人の眼が今ぢやそなたも厭《いや》であろ。
何がせはしいカナリヤよ。
――よしやこの身が冷たくなろと息が締《き》れよとそなたは他人。
死なぬさきから鳴かうとままよ、あとの二日でわしも死ぬ…………
みなし兒
あかい夕日のてる坂で
われと泣くよならつぱぶし…………
あかい夕日の
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