※「#「插」の最後の縦画が下に突き出ている文字、第4水準2−13−28、XLVI−9]んで見た、而して心いくまで自分の思を懷かしみたいと思つて、拙いながら自分の意匠通りに裝幀して、漸くこの五月に上梓する事となつた。なほこの集に※[#「插」の最後の縦画が下に突き出ている文字、第4水準2−13−28、XLVI−11]んだ司馬江漢の銅版畫は第一囘の競賣の際古道具屋の手に依て一旦|埃塵溜《ごみため》に投げ棄てられたのをそつと私の拾つて來たものであつて、着色の珍らしい、印象の強い異國趣味のものだつたのが寫眞の不鮮明な爲め全く原畫の風韻を失つて了つたのはこの上もなく殘念に思はれる。畢竟私はこの「思ひ出」に依て、故郷と幼年時代の自分とに潔く訣別しやうと思ふ。過ぎゆく一切のものをしてかの紅い天鵞絨葵のやうに凋ましめよ。私の望むところは寧ろあの光輝ある未來である。而して私の凡ての感覺が新らしい甘藍の葉のやうに生《いき》いきとい香ひを放つてゐる「刹那」の狂ほしい氣分のなかに更に力ある人生の意義を見出すことである。終にたつた一人の愛する妹の爲めに、その可憐な十の指の何時までも細くしなやかならんことを切に祈つて置く。
TONKA JOHN.[#地より3字上げ]
 一九一一、晩春、
     東京にて。
[#改丁]


思ひ出目次

序詩

骨牌の女王
 金の入日に繻子の黒
 骨牌の女王の手に持てる花
 燒栗のにほひ
 黒い小猫
 足くび
 小兒と娘
 青い小鳥
 みなし兒
 秋の日
 人形つくり
 くろんぼ

斷章六十一
 一、今日もかなしと思ひしか
 二、ああかなしあはれかなし
 三、ああかなしあえかにもうらわかき
 四、あはれわが君おもふ
 五、暮れてゆく雨の日の
 六、あはれ友よわかき日の友よ
 七、見るとなく涙ながれぬ
 八、女子よ汝はかなし
 九、あはれ日のかりそめのものなやみ
 十、あはれあはれ色薄きかなしみの葉かげに
 十一、酒を注ぐ君のひとみの
 十二、女汝はなにか欲りする
 十三、惱ましき晩夏の日に
 十四、わが友よ
 十五、あはれ君我をそのごと
 十六、哀知る女子のために
 十七、口にな入れそ
 十八、われは思ふかの夕ありし音色を
 十九、嗚呼さみし哀れさみし
 二十、大ぞらに入日のこり
 二十一、いとけなき女の子に
 二十二、わが友いづこにありや
 二十三、彌古りて大
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