てゐた紺と赤との燕《つばくらめ》を。
BALL
柚子《ゆず》の果《み》が黄色く、
日があかるく、
さうして熱《あつ》い BALL.
觸《ふ》れ易いこころの痛《いた》さ、
何がなしに
握りしむる BALL.
投げるとき、
やはらかな掌《てのひら》に、
なつかしい汗が光り…………
受けるとき、
しみじみと抱く音、
接吻《せつぷん》…………
日が赤く、
柚子《ゆず》の果《み》が黄色く、
何處《どこ》かで糸操りの車。
なつかしい少年のこころに
圓い、軟《やはら》かな BALLの
やるせなさ…………
柚子《ゆず》の果《み》が黄色く、
日があかるく、
さうして投げかはす BALL.
尿する和蘭陀人
尿《いばり》する和蘭陀人…………
あかい夕日が照り、路傍の菜園には、
キヤベツの新らしい微風、
切通のかげから白い港のホテルが見える。
十月の夕景か、ぼうつと汽笛のきこゆる。
なつかしい長崎か、香港《ホンコン》の入江か、葡萄牙《ポルトガル》?佛蘭西?
ザボンの果《み》の黄色いかがやき、
そのさきを異人がゆく、女の赤い輕帽《ボンネツト》…………
尿《いばり》する和蘭陀人…………
そなたは何を見てゐる、彎曲《ゆみなり》の路から、
斷層面の赤いてりかへしの下から、
前かがみに腰をかがめた、あちら向きの男よ。
わたしは何時も長閑《のどか》な汝《そなた》の頭上から、
瀟洒な外輪船《ぐわいりんせん》の出てゆく油繪の夕日に魅《み》せられる。
病氣のとき、ねむるとき、さうして一人で泣いてゐる時、
ほんのしばらく立ちどまり、尿する和蘭陀人のこころよ。
水中のをどり
色あかきゐもりの腹のひとをどり、
水の痛《いた》さにひとをどり。
腹の赤さは血のごとく、
水の痛《いた》さは石炭酸を撒《ふ》るごとし。
時は水無月、日は眞晝、
ゐもりの小さきみなし兒は
尻尾《しつぽ》もふらず、掌《て》も開《あ》かず、
たつた、ふたつの眼を開《あ》けて
ついとかへりぬひとをどり…………
風はつめたく、山ふかく、
青い松葉が針のごと光りて落つるたまり水。
色あかきゐもりの腹のひとをどり、
水の痛さにひとをどり。
怪しき思
われは探しぬ、色黒き天鵞絨《びろうど》の蝶、
日ごと夜ごとに針《ピン》を執り、テレピンを執り、
かくて殺しぬ、突き刺しぬ、ちぎり、なすりぬ。
鬼
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