《く》る音《おと》。
わかれ路《みち》、辻《つじ》の濃霧《こぎり》は
馬やどののこるあかりに
幻燈《げんとう》のぼかしのごとも
蒸し青《あを》み、破《や》れし土馬車《つちばしや》
ふたつみつ泥《どろ》にまみれて
ひそやかに影を落《おと》しぬ。
泥濘《ぬかるみ》の物の汗《あせ》ばみ
生《なま》ぬるく、重き空気《くうき》に
新しき木犀《もくせい》まじり、
馬槽《うまぶね》の臭気《くさみ》ふけつつ、
懶《もの》うげのさやぎはたはた
暑《あつ》き夜《よ》のなやみを刻《きざ》む。
足音《あしおと》す、生血《なまち》の滴《した》り
しとしととまへを人かげ、
おちうどか、ほたや、六部《ろくぶ》か、
背《せ》に高き龕《みづし》をになひ、
青き火の消えゆくごとく
呻《うめ》きつつ闇にまぎれぬ。
生騒《なまさや》ぎ野をひとわたり。
とある枝《え》に蝉は寝《ね》おびれ、
ぢと嘆《なげ》き、鳴きも落つれば
洞《ほら》円《まろ》き橋台《はしだい》のをち、
はつかにも断《き》れし雲間《くもま》に
月|黄《き》ばみ、病める笑《わら》ひす。
夜《よ》の汽車の重きとどろき。
凄まじき驟雨《しゆうう》のまへを、
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