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――汽車のなかにて――
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わが友よ、はや眼《め》をさませ。
玻璃《はり》の戸にのこる灯《ひ》ゆらぎ、
夜《よ》はわかきうれひに明けぬ。
順礼はつとにめざめて
あえかなる友をかおもふ。
清《すず》しげの髪のそよぎに
笈《おひづる》のいろもほのぼの。

わが友よ、はや眼《め》をさませ。
かなた、いま白《しら》む野のそら、
薔薇《さうび》にはほのかに薄《うす》く
菫よりやや濃《こ》きあはひ、
かのわかき瞳《ひとみ》さながら
あけぼのの夢より醒《さ》めて
わだつみはかすかに顫《ふる》ふ。


  紅玉

かかるとき、
海ゆく船に
まどはしの人魚《にんぎよ》か蹤《つ》ける。
美くしき術《じゆつ》の夕《ゆふべ》に、
まどろみの香油《かうゆ》したたり、
こころまた
けぶるともなく、
幻《まぼろし》の黒髪きたり、
夜《よ》のごとも
わが眼《め》蔽《おほ》へり。
そことなく
おほくのひとの
あえかなるかたらひおぼえ、
われはただひし[#「ひし」に傍点]と凝視《みつ》めぬ。
夢ふかき黒髪の奥《おく》
朱《しゆ》に喘ぐ
紅玉《こうぎよく》ひとつ、
これや、
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