[#地付き]四十一年八月


  硝子切るひと

君は切る、
色あかき硝子《がらす》の板《いた》を。
落日《いりひ》さす暮春《ぼしゆん》の窓に、
いそがしく撰《えら》びいでつつ。

君は切る、
金剛《こんがう》の石のわかさに。

茴香酒《アブサン》のごときひとすぢ
つと引きつ、切りつ、忘れつ。

君は切る、
色あかき硝子《がらす》の板を。

君は切る、君は切る。
[#地付き]四十年十二月


   悪の窓 断篇七種


   一 狂念

あはれ、あはれ、
青白《あをじろ》き日の光西よりのぼり、
薄暮《くれがた》の灯のにほひ昼もまた点《とも》りかなしむ。

わが街《まち》よ、わが窓よ、なにしかも焼酎《せうちう》叫《さけ》び、
鶴嘴《つるはし》のひとつらね日に光り悶《もだ》えひらめく。

汽車《きしや》ぞ来《く》る、汽車《きしや》ぞ来《く》る、真黒《まくろ》げに夢とどろかし、
窓もなき灰色《はひいろ》の貨物輌《くわもつばこ》豹《へう》ぞ積みたる。
あはれ、はや、焼酎《せうちう》は醋《す》とかはり、人は轢《し》かれて、
盲《めし》ひつつ血に叫ぶ豹《へう》の声|遠《とほ》に泡《あわ》立つ。
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