烽ゥかる空気《くうき》の吐息《といき》……
わかき日のその夢の香《か》の腐蝕《ふしよく》静《しづ》こころなし。
三層《さんかい》の隅《すみ》か、さは
腐《くさ》れたる黄金《わうごん》の縁《ふち》の中《うち》、自鳴鐘《とけい》の刻《きざ》み……
ものなべて悩《なや》ましさ、盲《し》ひし少女《をとめ》の
あたたかに匂《にほひ》ふかき感覚《かんかく》のゆめ、
わかき日のその靄に音《ね》は響《ひゞ》く、静《しづ》こころなし。
晩春《おそはる》の室《むろ》の内《うち》、
暮れなやみ、暮れなやみ、噴水《ふきあげ》の水はしたたる……
そのもとにあまりりす[#「あまりりす」に傍点]赤くほのめき、
甘く、またちらぼひぬ、ヘリオトロオブ。
わかき日は暮《く》るれども夢はなほ静《しづ》こころなし。
[#地付き]四十一年十二月
陰影の瞳
夕《ゆふべ》となればかの思《おもひ》曇硝子《くもりがらす》をぬけいでて、
廃《すた》れし園《その》のなほ甘《あま》きときめきの香《か》に顫《ふる》へつつ、
はや饐《す》え萎《な》ゆる芙蓉花《ふようくわ》の腐《くさ》れの紅《あか》きものかげと、
縺《もつ》れてやまぬ
前へ
次へ
全122ページ中8ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
北原 白秋 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング