sはりき》脊《せ》にし死すとも
惜《を》しからじ、願ふは極秘《ごくひ》、かの奇《く》しき紅《くれなゐ》の夢、
善主麿《ぜんすまろ》、今日《けふ》を祈《いのり》に身《み》も霊《たま》も薫《くゆ》りこがるる。
[#地付き]四十一年八月


  室内庭園

晩春《おそはる》の室《むろ》の内《うち》、
暮れなやみ、暮れなやみ、噴水《ふきあげ》の水はしたたる……
そのもとにあまりりす[#「あまりりす」に傍点]赤《あか》くほのめき、
やはらかにちらぼへるヘリオトロオブ。
わかき日のなまめきのそのほめき静《しづ》こころなし。

尽《つ》きせざる噴水《ふきあげ》よ………
黄《き》なる実《み》の熟《う》るる草、奇異《きゐ》の香木《かうぼく》、
その空にはるかなる硝子《がらす》の青み、
外光《ぐわいくわう》のそのなごり、鳴ける鶯《うぐひす》、
わかき日の薄暮《くれがた》のそのしらべ静《しづ》こころなし。

いま、黒《くろ》き天鵝絨《びろうど》の
にほひ、ゆめ、その感触《さはり》………噴水《ふきあげ》に縺《もつ》れたゆたひ、
うち湿《しめ》る革《かは》の函《はこ》、饐《す》ゆる褐色《かちいろ》
その空に暮れ
前へ 次へ
全122ページ中7ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
北原 白秋 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング