_《しゆうもんしん》を、あるはまた、血に染む聖磔《くるす》、
芥子粒《けしつぶ》を林檎のごとく見すといふ欺罔《けれん》の器《うつは》、
波羅葦僧《はらいそ》の空《そら》をも覗《のぞ》く伸《の》び縮《ちゞ》む奇《き》なる眼鏡《めがね》を。

屋《いへ》はまた石もて造り、大理石《なめいし》の白き血潮《ちしほ》は、
ぎやまんの壺《つぼ》に盛られて夜《よ》となれば火|点《とも》るといふ。
かの美《は》しき越歴機《えれき》の夢は天鵝絨《びろうど》の薫《くゆり》にまじり、
珍《めづ》らなる月の世界の鳥獣《とりけもの》映像《うつ》すと聞けり。

あるは聞く、化粧《けはひ》の料《しろ》は毒草《どくさう》の花よりしぼり、
腐《くさ》れたる石の油《あぶら》に画《ゑが》くてふ麻利耶《まりや》の像《ざう》よ、
はた羅甸《らてん》、波爾杜瓦爾《ほるとがる》らの横《よこ》つづり青なる仮名《かな》は
美《うつ》くしき、さいへ悲しき歓楽《くわんらく》の音《ね》にかも満つる。

いざさらばわれらに賜《たま》へ、幻惑《げんわく》の伴天連《ばてれん》尊者《そんじや》、
百年《もゝとせ》を刹那《せつな》に縮《ちゞ》め、血の磔
前へ 次へ
全122ページ中6ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
北原 白秋 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング