琴《おほオルガン》の音《ね》の吐息《といき》
たゆらに嘆《なげ》き、白蝋《はくらふ》の盲《し》ひゆく涙。――
壁のなかには埋《うづ》もれて
眩暈《めくるめ》き、素肌《すはだ》に立てるわかうどが赤き幻《まぼろし》。

ただ赤き精舎《しやうじや》の壁に、
妄念《まうねん》は熔《とろ》くるばかりおびえつつ
全身《ぜんしん》落つる日を浴《あ》びて真夏《まなつ》の海をうち睨《にら》む。
『聖《サンタ》マリヤ、イエスの御母《みはは》。』
一斉《いつせい》に礼拝《をろがみ》終《をは》る老若《らうにやく》の消え入るさけび。
はた、白《しら》む入日の色に
しづしづと白衣《はくえ》の人らうちつれて
湿潤《しめり》も暗き戸口《とぐち》より浮びいでつつ、
眩《まぶ》しげに数珠《じゆず》ふりかざし急《いそ》げども、
など知らむ、素肌《すはだ》に汗《あせ》し熔《とろ》けゆく苦悩《くなう》の思《おもひ》。

暮れのこる邪宗《じやしゆう》の御寺《みてら》
いつしかに薄《うす》らに青くひらめけば
ほのかに薫《くゆ》る沈《ぢん》の香《かう》、波羅葦増《ハライソ》のゆめ。
さしもまた埋《うも》れて顫《ふる》ふ妄念《まうねん
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