拳《こぶし》あげ、
霞《かす》める街《まち》の大時計《おほどけい》睨《にら》みつめたる
山門《さんもん》の仁王《にわう》の赤《あか》き幻想《イリユウジヨン》……

その裏《うら》を
ちやるめらのゆく……
[#地付き]四十一年十二月


  浴室

水落つ、たた[#「たた」に傍点]と………浴室《よくしつ》の真白き湯壺《ゆつぼ》
大理石《なめいし》の苦悩《なやみ》に湯気《ゆげ》ぞたちのぼる。
硝子《がらす》の外《そと》の濁川《にごりがは》、日にあかあかと
小蒸汽《こじようき》の船腹《ふなばら》光るひとみぎり、太鼓ぞ鳴れる。

水落つ、たた[#「たた」に傍点]と………‥灰色《はひいろ》の亜鉛《とたん》の屋根の
繋留所《けいりうじよ》、わが窓近き陰鬱《いんうつ》に
行徳《ぎやうとく》ゆきの人はいま見つつ声なし、
川むかひ、黄褐色《わうかつしよく》の雲のもと、太皷ぞ鳴れる。

水落つ、たた[#「たた」に傍点]と…………両国《りやうごく》の大吊橋《おほつりばし》は
うち煤《すす》け、上手《かみて》斜《ななめ》に日を浴《あ》びて、
色薄|黄《き》ばみ、はた重く、ちやるめらまじり
忙《せは》しげに夜
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