礼《じゆんれい》の子はひとり頬《ほ》をふくらませ、
濁《にご》りたる眼《め》をあげて管《くだ》うち吹ける。
腐《くさ》れゆく襤褸《つづれ》のにほひ、
酢《す》と石油《せきゆ》……にじむ素足《すあし》に
落ちちれる果実《くだもの》の皮、赤くうすく、あるは汚《きた》なく……

片手《かたて》には噛《かぢ》りのこせし
林檎《りんご》をばかたく握《にぎ》りぬ。
かくてなほ頬《ほ》をふくらませ
怖《おづ》おづと吹きいづる………珠《たま》の石鹸《しやぼん》よ。

さはあれど、珠《たま》のいくつは
なやましき夕暮《ゆふぐれ》のにほひのなかに
ゆらゆらと円《まろ》みつつ、ほつと消《き》えたる。
ゆめ、にほひ、その吐息《といき》……

彼《かれ》はまた、
怖々《おづおづ》と、怖々《おづおづ》と、……眩《まぶ》しげに頬《ほ》をふくらませ
蒸《む》し淀《よど》む空気《くうき》にぞ吹きもいでたる。

あはれ、見よ、
いろいろのかがやきに濡《ぬ》れもしめりて
円《まろ》らにものぼりゆく大《おほ》きなるひとつの珠《たま》よ。
そをいまし見あげたる無心《むしん》の瞳《ひとみ》。

背後《そびら》には、血しほしたたる
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