シオパン》 の楽《がく》のしたたり
やはらかに絶えず霧するにほやかさ。
ああ、さはあかれ、嗟嘆《なげかひ》の樅《もみ》のふたもと。

はやにほふ樅《もみ》のふたもと。
いつしかに色にほひゆく靄のすそ、
しみらに燃《も》ゆる日の薄黄《うすぎ》、映《うつ》らふみどり、
ひそやかに暗《くら》き夢|弾《ひ》く列並《つらなみ》の
遠《とほ》の山々《やまやま》おしなべてものやはらかに、
近《ちか》ほとりほのめきそむる歌《うた》の曲《ふし》。
ああ、はやにほへ、嗟嘆《なげかひ》の樅《もみ》のふたもと。

燃えいづる樅《もみ》のふたもと。
濡れ滴《した》る柑子《かうじ》の色のひとつらね、
深き青みの重《かさな》りにまじらひけぶる
山の端《は》の縺《もつ》れのなやみ、あるはまた
かすかに覗《のぞ》く空のゆめ、雲のあからみ、
晩夏《おそなつ》の入日《いりひ》に噎《むせ》ぶ夕《ゆふ》ながめ。
ああ、また燃《も》ゆれ、嗟嘆《なげかひ》の樅《もみ》のふたもと。

色うつる樅《もみ》のふたもと。
しめやげる葬《はふり》の曲《ふし》のかなしみの
幽《かす》かにもののなまめきに揺曳《ゆらひ》くなべに、
沈《しづ》みゆ
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