の衣《きぬ》うかびつれつつ、
映《うつ》りゆく絵《ゑ》のなかのいそがしさ、さは繰りかへす。――
そのかげに苦痛《くるしみ》の暗《くら》きこゑまじりもだゆる。

なべてみな悩《なや》み入る、夏の夜《よ》のいと青き光のなかに。――
蒸し暑《あつ》き軟《なよ》ら風《かぜ》もの甘《あま》き汗《あせ》に揺《ゆ》れつつ、
ほつほつと点《と》もれゆく水《みづ》の面《も》のなやみの燈《ともし》、
鹹《しほ》からき執《しふ》の譜《ふ》よ………み空には星ぞうまるる。

かくてなほ悩み顫《ふる》ふわかき日の薄暮《くれがた》のゆめ。――
見よ、苦《にが》き闇《やみ》の滓《をり》街衢《ちまた》には淀《よど》みとろげど、
新《あらた》にもしぶきいづる星の華《はな》――泡《あわ》のなげきに
色青き酒のごと空《そら》は、はた、なべて澄みゆく。
[#地付き]四十一年七月


  樅のふたもと

うちけぶる樅《もみ》のふたもと。
薄暮《くれがた》の山の半腹《なから》のすすき原《はら》、
若草色《わかくさいろ》の夕《ゆふ》あかり濡れにぞ濡るる
雨の日のもののしらべの微妙《いみじ》さに、
なやみ幽《かす》けき Chopin《
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