《と》ける。
次《つぎ》なるは聾《ろう》しぬる清き尼《あま》三味線《しやみせん》弾《ひ》ける。

しかはあれ、照り狂ふ街《まち》はまた酒と歌とに
しどろなる舞《まひ》の列《れつ》あかあかと淫《たは》れくるめき、
馬車《ばしや》のあと見もやらず、意味《いみ》もなく歌ひ倒《たふ》るる。


   C 醋の甕

蒼《あを》ざめし汝《な》が面《おもて》饐《す》えよどむ瞳《ひとみ》のにごり、
薄暮《くれがた》に熟視《みつ》めつつ撓《たわ》みちる髪の香《か》きけば――
醋《す》の甕《かめ》のふたならび人もなき室《むろ》に沈みて、
ほの暗《くら》き玻璃《はり》の窓ひややかに愁《うれ》ひわななく。

外面《とのも》なる嗟嘆《なげかひ》よ、波もなきいんく[#「いんく」に傍点]の河に
旗青き独木舟《うつろぶね》そこはかと巡《めぐ》り漕ぎたみ、
見えわかぬ悩《なやみ》より錨《いかり》曳《ひ》き鎖《くさり》巻かれて、
伽羅《きやら》まじり消え失《う》する黒蒸汽《くろじようき》笛《ふえ》ぞ呻《うめ》ける。

吊橋《つりばし》の灰白《はひじろ》よ、疲《つか》れたる煉瓦《れんぐわ》の壁《かべ》よ、
たまたまに整《と
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