》より。

かくてなほ声もなき秦皮《とねりこ》よ、秘《ひそ》に火ともり、
精舎《しやうじや》また水晶と凝《こご》る時《とき》愁《うれひ》やぶれて
響きいづ、響きいづ、最終《いやはて》の霊《たま》の梵鐘《ぼんしよう》。
[#地付き]以下五篇――四十一年三月


   B 狂へる街

赭《あか》らめる暗《くら》き鼻、なめらかに禿《は》げたる額《ひたひ》、
痙攣《ひきつ》れる唇《くち》の端《はし》、光なくなやめる眼《まなこ》
なにか見る、夕栄《ゆふばえ》のひとみぎり噎《むせ》ぶ落日《いりひ》に、
熱病《ねつびやう》の響《ひびき》する煉瓦家《れんぐわや》か、狂へる街《まち》か。

見るがまに焼酎《せうちう》の泡《あわ》しぶきひたぶる歎《なげ》く
そが街《まち》よ、立てつづく尖屋根《とがりやね》血ばみ疲《つか》れて
雲赤くもだゆる日、悩《なや》ましく馬車《ばしや》駆《か》るやから
霊《たましひ》のありかをぞうち惑《まど》ひ窓《まど》ふりあふぐ。

その窓《まど》に盲《めし》ひたる爺《をぢ》ひとり鈍《にぶ》き刃《は》研《と》げる。
はた、唖《おふし》朱《しゆ》に笑ひ痺《しび》れつつ女《をみな》を説
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