くわと来り、燃《も》えゆく旗は
死に堕《お》つる、夏の光のうしろかげ。

灰色の亜鉛《とたん》の屋根に、
青銅《せいどう》の擬宝珠《ぎぼしゆ》の錆《さび》に、
また寒き万象《ものみな》の愁《うれひ》のうへに、
爛《たゞ》れ弾《ひ》く猩紅熱《しやうこうねつ》の火の調《しらべ》、
狂気《きやうき》の色と冷《さ》めがたの疲労《つかれ》に、今は
ひた嘆《なげ》く、悔《くい》と、悩《なやみ》と、戦慄《をのゝき》と。

あかあかとひらめく旗は
猥《みだ》らなるその最終《いやはて》の夏の曲《きよく》。

あなあはれ、あなあはれ、
あなあはれ、光消えさる。
[#地付き]四十年十一月


  赤子

赤子啼く、
[#ここから2字下げ]
急《はや》き瀬《せ》の中《うち》。
[#ここで字下げ終わり]

壁重き女囚《ぢよしう》の牢獄《ひとや》、
鉄《てつ》の門《もん》、
淫慾《いんよく》の蛇の紋章《もんしやう》
くわとおびえ、
水に、落日《いりひ》に
照りかへし、
[#ここから1字下げ]
黄ばむひととき。
[#ここで字下げ終わり]

赤子《あかご》啼《な》く、
[#ここから2字下げ]
急《はや》き瀬《せ》の中
前へ 次へ
全122ページ中50ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
北原 白秋 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング