et の陽光に輝きわたれるに驚くならむ。そは Velazquez の灰色より俄に現れいでたる午后の日なりき。あはれ日はやうやう暮れてぞゆく。金緑に紅薔薇を覆輪にしたりけむ Monet の波の面も青みゆき、青みゆき、ほのかになつかしくはた悲しき Cafin の夕は来る。燈の薄黄は Whistler の好みの色とぞ。月出づ。Pissarro のあをき衢を Verlaine の白月の賦など口荒みつつ過ぎゆくは誰が家の子ぞや。[#地から1字上げ]太田正雄
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  冷めがたの印象

あわただし、旗ひるがへし、
朱《しゆ》の色の駅逓《えきてい》馬車《ぐるま》跳《をど》りゆく。

曇日《くもりび》の色なき街《まち》は
清水《しみづ》さす石油《せきゆ》の噎《むせび》、
轢《し》かれ泣く停車場《ていしやば》の鈴《すゞ》、溝《みぞ》の毒《どく》、
昼の三味《しやみ》、鑢《やすり》磨《す》る歌、
茴香酒《アブサン》の青み泡だつ火の叫《さけび》、
絶えず眩《くる》めく白楊《やまならし》、遂に疲れて
マンドリン奏《かな》でわづらふ風の群《むれ》、
あなあはれ、そのかげに乞食《かたゐ》ゆきかふ。


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