オかに蒸汽《じようき》の鈍《にぶ》き船腹《ふなばら》の
ごとくに光りかぎろひし瘋癲院《ふうてんゐん》も暮れゆけば、
ただ冷《ひ》えしぶく茴香酒《アブサント》、鋭《するど》き玻璃《はり》のすすりなき。
草場《くさば》の赤き一群《ひとむれ》よ、眼《め》ををののかし、
躍《をど》り泣き弾《ひ》きただらかす歓楽《くわんらく》の
はてしもあらぬ色盲《しきまう》のまぼろしのゆめ……
午後の七時の印象《いんしやう》はかくて夜《よ》に入る。
空気は苦《にが》し……はや暗《くら》し……黄《き》に……なほ青く……
[#地付き]四十一年九月
風のあと
夕日《ゆふひ》はなやかに、
こほろぎ啼《な》く。
あはれ、ひと日、木の葉ちらし吹き荒《すさ》みたる風も落ちて、
夕日《ゆふひ》はなやかに、
こほろぎ啼く。
[#地付き]四十一年八月
月の出
ほのかにほのかに音色《ねいろ》ぞ揺《ゆ》る。
かすかにひそかににほひぞ鳴る。
しみらに列《なみ》立《た》つわかき白楊《ぽぴゆら》、
その葉のくらみにこころ顫《ふる》ふ。
ほのかにほのかに吐息《といき》ぞ揺る。
かすかにひそかに雫《しづく》ぞ鳴る。
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