ス赤し……黄《き》に……はた、緑《みどり》……

晩夏《おそなつ》の午後五時半の日光《につくわう》は※[#「日/咎」、第3水準1−85−32]《かげり》を見せて、
蒸し暑く噴水《ふきゐ》に濡《ぬ》れて照りかへす。
瘋癲院《ふうてんゐん》の陰鬱《いんうつ》に硝子《がらす》は光り、
草場《くさば》には青き飛沫《しぶき》の茴香酒《アブサント》冷《ひ》えたちわたる。

いま狂人《きやうじん》のひと群《むれ》は空うち仰ふぎ――
饗宴《きやうえん》の楽器《がくき》とりどりかき抱《いだ》き、自棄《やけ》に、しみらに、
傷《きず》つける獣《けもの》のごとき雲の面《おも》
ひたに怖れて色盲《しきまう》の幻覚《まぼろし》を見る。
空気《くうき》は重し……また赤し……共に……はた緑《みどり》……
  *   *   *   *
    *   *   *   *
オボイ鳴る……また、トロムボオン……
狂《くる》ほしき※[#濁点付き片仮名ヰ、1−7−83]オラの唸《うなり》……

一人《ひとり》の酸《す》ゆき音《ね》は飛びて怜羊《かもしか》となり、
ひとつは赤き顔ゑがき、笑《わら》ひわななく
音《ね》の恐怖《
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