ノか入るらむ。
しばらくは
事もなし。
かかる日の雨の日ぐらし。
ち、ち、ち、ち、ともののせはしく
刻《きざ》む音《おと》……
さもあれや、
雨はまたゆるにしとしと
暮れもゆくゆめの曲節《めろでい》……
いづこにか鈴《すゞ》の音《ね》しつつ、
近く、
はた、速のく軋《きしり》、
待ちあぐむ郵便馬車《いうびんばしや》の
旗の色《いろ》見えも来なくに、
うち曇る馬の遠嘶《とほなき》。
さあれ、ふと
夕日さしそふ。
瞬間《たまゆら》の夕日さしそふ。
あなあはれ、
あなあはれ、
泣き入りぬ罌粟《けし》のひとつら、
最終《いやはて》に燃《も》えてもちりぬ。
日の光かすかに消ゆる。
ち、ち、ち、ち、ともののせはしく
刻《きざ》む音《おと》……
雨の曲節《めろでい》……
ものなべて、
ものなべて、
さは入らむ、暗き愁に。
あはれ、また、出でゆきし思のやから
帰り来なくに。
ち、ち、ち、ち、ともののせはしく
刻《きざ》む音《おと》……
雨の曲節《めろでい》……
灰色《はひいろ》の局《きよく》は夜《よ》に入る。
[#地付き]四十一年五月
狂人の音楽
空気《くうき》は甘し……ま
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