@ 黒船
黒煙《くろけぶり》ほのにひとすぢ。――
あはれ、日は血を吐く悶《もだえ》あかあかと
濡れつつ淀《よど》む悪《あく》の雲そのとどろきに
燃え狂ふ恋慕《れんぼ》の楽《がく》の断末魔《だんまつま》。
遠目《とほめ》に濁る蒼海《わだつみ》の色こそあかれ、
黒潮《くろしほ》の水脈《みを》のはたての水けぶり、
はた、とどろ撃《う》つ毒の砲弾《たま》、清《すず》しき喇叭《らつぱ》、
薄暮《くれがた》の朱《あけ》のおびえの戦《たゝかひ》に
疲れくるめく衰《おとろへ》ぞああ音《ね》を搾《しぼ》る。
黒煙《くろけぶり》またもふたすぢ。――
序《じよ》のしらべ絶《た》えつ続きつ、いつしかに
黒《くろ》き悩《なやみ》の旋律《せんりつ》ぞ渦《うづ》巻《ま》き起る。
逃《に》げ来《く》るは密猟船《みつれうせん》の旗じるし、
痍《きずつ》き噎《むせ》ぶ血と汚穢《けがれ》、はた憤怒《いきどほり》
おしなべて黄ばみ騒立《さわだ》つ楽《がく》の色。
空には苦《にが》き嘲笑《あざけり》に雲かき乱れ、
重《おも》りゆく煩悶《もだえ》のあらびはやもまた
黒き恐怖《おそれ》のはたためき海より煙る。
黒煙三すぢ、五
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