吹けよ、また媚薬《びやく》の嵐。

一瞬《ひととき》よ、――光よ、水脈《みを》よ、
楽《がく》の音《ね》よ――酒のキユラソオ、
接吻《くちつけ》の非命《ひめい》の快楽《けらく》、
毒水《どくすゐ》の火のわななきよ。
狂《くる》へ、狂《くる》へ、破滅《ほろび》の渚《なぎさ》、
聴くははや楽《がく》の大極《たいきよく》、
狂乱《きやうらん》の日の光|吸《す》ふ
紅《あか》き帆の終《つひ》のはためき。

死なむ、死なむ、二人《ふたり》は死なむ。

紅《あか》き帆《ほ》きゆる。
紅《あか》き帆《ほ》きゆる。
[#地付き]四十年十二月


  といき

大空《おほそら》に落日《いりひ》ただよひ、
旅しつつ燃えゆく黄雲《きぐも》。
そのしたの伽藍《がらん》の甍《いらか》
半《なかば》黄《き》になかばほのかに、
薄闇《うすやみ》に蝋《らふ》の火にほひ、
円柱《まろはしら》またく暮れたる。

ほのめくは鳩の白羽《しらは》か、
敷石《しきいし》の闇にはひとり
盲《めしひ》の子ひたと膝つけ、
ほのかにも尺八《しやくはち》吹《ふ》ける、
あはれ、その追分《おひわけ》のふし。
[#地付き]四十年十二月



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