ノうつる。

あはれ、見よ、そのかみの苦悩《なやみ》むなしく
壁はいたみ、円柱《まろはしら》熔《とろ》けくづれて
朽《く》ちはてし熔岩《ラヴア》に埋《うも》るるポンペイを、わが幻《まぼろし》を。
ひとびとはいましゆるかに絃《いと》の弓、
はた、もろもろの調楽《てうがく》の器《うつは》をぞ執る。

暗みゆく室内《むろぬち》よ、暗みゆきつつ
想《おもひ》の沈黙《しじま》重たげに音《おと》なく沈み、
そことなき月かげのほの淡《あは》くさし入るなべに、
はじめまづ※[#濁点付き片仮名ヰ、1−7−83]オロンのひとすすりなき、
鈍色《にびいろ》長き衣《ころも》みな瞳をつぶる。

燃えそむるヴヱス※[#濁点付き片仮名ヰ、1−7−83]アス、空のあなたに
色|新《あたら》しき紅《くれなゐ》の火ぞ噴《ふ》きのぼる。
廃《すた》れたる夢の古墟《ふるつか》、さとあかる我《わが》室《むろ》の内、
ひとときに渦巻《うづま》きかへす序《じよ》のしらべ
管絃楽部《オオケストラ》のうめきより夜《よ》には入りぬる。
[#地付き]四十一年二月


  納曾利

入日のしばし、空はいま雲の震慄《おびえ》のあかあかと
鋭《
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