sさ》くる赤き火の弾丸《たま》
た[#「た」に傍点]と笑ふ、と見る、我《われ》燬《や》き
我ならぬ獣《けもの》のつらね
真黒《まくろ》なる楽《がく》して奔《はし》る。
執念《しふねん》の闇曳き奔《はし》る。

そのなかにこほろぎ啼ける。

日や暮るる。我はや死ぬる。
野をあげて末期《まつご》のあらび――
暗《くら》き血の海に溺《おぼ》るる
赤き悲苦《ひく》、赤きくるめき、
ああ、今し、くわとこそ狂へ。

微《ほの》になほこほろぎ啼《な》ける。
[#地付き]四十年十二月


  序楽

ひと日、わが想《おもひ》の室《むろ》の日もゆふべ、
光、もののね、色、にほひ――声なき沈黙《しじま》
徐《おもむろ》にとりあつめたる室《むろ》の内《うち》、いとおもむろに、
薄暮《くれがた》のタンホイゼルの譜《ふ》のしるし
ながめて人はゆめのごとほのかにならぶ。

壁はみな鈍《にぶ》き愁《うれひ》ゆなりいでし
象《ざう》の香《か》の色まろらかに想《おもひ》鎖《さ》しぬれ、
その隅に瞳の色の窓ひとつ、玻璃《はり》の遠見《とほみ》に
冷《ひ》えはてしこの世のほかの夢の空
かはたれどきの薄明《うすあかり》ほのか
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