ホ、
ほのかにも誘《さそ》はれ来《きた》る隊商《カラバン》の
鈴《すず》鳴る……あはれ、今日《けふ》もまた恐怖《おそれ》の予報《しらせ》。
はとばかり黙《つぐ》み戦《をのの》くものの息《いき》。
色天鵝絨《いろびろうど》を擦《す》るごとき裳裾《もすそ》のほかは
声もなく甘く重《おも》たき靄《もや》の闇《やみ》、
はやも王女《わうぢよ》の領《し》らすべき夜《よ》とこそなりぬ。
[#地付き]四十一年八月
蜜の室
薄暮《くれがた》の潤《うる》みにごれる室《むろ》の内《うち》、
甘くも腐《くさ》る百合《ゆり》の蜜《みつ》、はた、靄《もや》ぼかし
色赤きいんくの罎《びん》のかたちして
ひそかに点《とも》る豆らんぷ息《いき》づみ曇る。
『豊国《とよくに》』のぼやけし似顔《にがほ》生《なま》ぬるく、
曇硝子《くもりがらす》の※[#「窗/心」、第3水準1−89−54]のそと外光《ぐわいくわう》なやむ。
ものの本《ほん》、あるはちらぼふ日のなげき、
暮れもなやめる霊《たましひ》の金字《きんじ》のにほひ。
接吻《くちつけ》の長《なが》き甘さに倦《あ》きぬらむ。
そと手をほどき靄の内《うち》
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