ワり、
はや倦《う》ましげに人形《にんぎやう》をそが手に泣かす。
日暮《ひくれ》どき、入日《いりひ》に濁る靄《もや》の内《うち》、
また、ふくらかに軽気球《けいききう》くだるけはひす。
[#地付き]四十一年八月
魔国のたそがれ
うち曇《くも》る暗紅色《あんこうしよく》の大《おほ》き日の
魔法《まはふ》の国に病《や》ましげの笑《ゑみ》して入れば、
もの甘《あま》き驢馬《ろば》の鳴く音《ね》にもよほされ、
このもかのもに悩《なや》ましき吐息《といき》ぞおこる。
そのかみの激《はげ》しき夢や忍《しの》ぶらむ。
鬱黄《うこん》の百合《ゆり》は血《ち》ににじむ眸《ひとみ》をつぶり、
人間《にんげん》の声《こゑ》して挑《いど》み、飛びかはし
鸚鵡《あうむ》の鳥はかなしげに翅《つばさ》ふるはす。
草も木もかの誘惑《いざなひ》に化《な》されつる
旅のわかうど、暮れ行けば心ひまなく
えもわかぬ毒《どく》の怨言《かごと》になやまされ、
われと悲しき歓楽《くわんらく》に怕《おそ》れて顫《ふる》ふ。
日は沈み、たそがれどきの空《そら》の色
青き魔薬《まやく》の薫《かをり》して古《ふ》りつつゆけ
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