ェほかの霊《たましひ》のありとあらゆるその呪咀《のろひ》。

朝明《あさあけ》か、
死《し》の薄暮《くれがた》か、
昼か、なほ生《あ》れもせぬ日か、
はた、いづれともあらばあれ。

われら知る赤き唇《くちびる》。
[#地付き]四十一年六月


  濁江の空

腐《くさ》れたる林檎《りんご》の如き日のにほひ
円《まろ》らに、さあれ、光なく甘《あま》げに沈む
晩春《おそはる》の濁《にごり》重《おも》たき靄の内《うち》、
ふと、カキ色《いろ》の軽気球《けいききう》くだるけはひす。

遠方《をちかた》の曇《くも》れる都市《とし》の屋根《やね》の色
たゆげに仰《あふ》ぐ人はいま鈍《にぶ》くもきかむ、
濁江《にごりえ》のねぶたき、あるは、やや赤《あか》き
にほひの空のいづこにか洩《も》るる鉄《てつ》の音《ね》。

なやましき、さは江《え》の泥《どろ》の沈澱《おどみ》より
あかるともなき灰紅《くわいこう》の帆のふくらみに
伝《つた》へくる潜水夫《もぐりのひと》が作業《さげふ》にか、
饐《す》えたる吐息《といき》そこはかと水面《みのも》に黄《き》ばむ。

河岸《かし》になほ物見《ものみ》る子らはうづく
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