齡N十二月
接吻の時
薄暮《くれがた》か、
日のあさあけか、
昼か、はた、
ゆめの夜半《よは》にか。
そはえもわかね、燃《も》えわたる若き命《いのち》の眩暈《めくるめき》、
赤き震慄《おびえ》の接吻《くちつけ》にひたと身《み》顫《ふる》ふ一刹那《いつせつな》。
あな、見よ、青き大月《たいげつ》は西よりのぼり、
あなや、また瘧《ぎやく》病《や》む終《はて》の顫《ふるひ》して
東へ落つる日の光、
大《おほ》ぞらに星はなげかひ、
青く盲《めし》ひし水面《みのも》にほ薬香《くすりが》にほふ。
あはれ、また、わが立つ野辺《のべ》の草は皆色も干乾《ひから》び、
折り伏せる人の骸《かばね》の夜《よ》のうめき、
人霊色《ひとだまいろ》の
木《き》の列《れつ》は、あなや、わが挽歌《ひきうた》うたふ。
かくて、はや落穂《おちぼ》ひろひの農人《のうにん》が寒き瞳よ。
歓楽《よろこび》の穂のひとつだに残《のこ》さじと、
はた、刈り入るる鎌の刃《は》の痛《いた》き光よ。
野のすゑに獣《けもの》らわらひ、
血に饐《す》えて汽車《きしや》鳴き過《す》ぐる。
あなあはれ、あなあはれ、
二人《ふたり》
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