キ》き色|鋭《するど》になげく……
はた、空《そら》のわか葉《ば》の威圧《ゐあつ》。

いづこにか、またもきけかし。
餌《ゑ》に饑《う》ゑしベリガンのけうとき叫《さけび》、
山猫《やまねこ》のものさやぎ、なげく鶯《うぐひす》、
腐《くさ》れゆく沼《ぬま》の水|蒸《む》すがごとくに。

そのなかに桐は散《ち》る…… Whisky《ウイスキイ》 の強きかなしみ……

もの甘《あま》き風のまた生《なま》あたたかさ、
猥《みだ》らなる獣《けもの》らの囲内《かこひ》のあゆみ、
のろのろと枝《え》に下《さが》るなまけもの、あるは、貧《まづ》しく
眼《め》を据《す》ゑて毛虫《けむし》啄《つ》む嗟歎《なげかひ》のほろほろ鳥《てう》よ。

そのもとに花はちる……桐のむらさき……

かくしてや日は暮《く》れむ、ああひと日。
病院《びやうゐん》を逃《のが》れ来《こ》し患者《くわんじや》の恐怖《おそれ》、
赤子《あかご》らの眼《め》のなやみ、笑《わら》ふ黒奴《くろんぼ》
酔《ゑ》ひ痴《し》れし遊蕩児《たはれを》の縦覧《みまはり》のとりとめもなく。

その空《そら》に桐《きり》はちる……新《あたら》しきしぶき、
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