烽ネき盲唖《まうあ》の院《ゐん》の氛囲気《ふんゐき》に月はしたたる。
[#地付き]四十一年十月


  赤き花の魔睡

日《ひ》は真昼《まひる》、ものあたたかに光素《エエテル》の
波動《はどう》は甘《あま》く、また、緩《ゆ》るく、戸《と》に照りかへす、
その濁《にご》る硝子《がらす》のなかに音《おと》もなく、
※[#「口+哥」、第4水準2−04−18]※[#「口+羅」、第3水準1−15−31]※[#「にんべん+方」、第3水準1−14−10]謨《コロロホルム》の香《か》ぞ滴《したた》る……毒《どく》の※[#「言+墟のつくり、第4水準2−88−74]言《うはごと》……

遠《とほ》くきく、電車《でんしや》のきしり……
………棄《す》てられし水薬《すゐやく》のゆめ……

やはらかき猫《ねこ》の柔毛《にこげ》と、蹠《あなうら》の
ふくらのしろみ悩《なや》ましく過《す》ぎゆく時《とき》よ。
窓《まど》の下《もと》、生《せい》の痛苦《つうく》に只《たゞ》赤《あか》く戦《そよ》ぎえたてぬ草《くさ》の花
亜鉛《とたん》の管《くだ》の
湿《しめ》りたる筧《かけひ》のすそに……いまし魔睡《ますゐ》す……

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