一面《いちめん》の壁の色。
朱《しゆ》のごとき怨念《をんねん》は
燃《も》え、われを凍《こほ》らしむ。
刹那《せつな》、かの驕《おご》りたる眼鼻《めはな》ども
胸かけて、生《なま》ぬるき埴《はに》の色
ひと息に鏝《こて》の手に葬《はうむ》られ
生《い》きながら苦《くる》しむか、ひくひくと
うち皺む壁の罅《ひび》、
今、暗き他界《たかい》より
凄きまで面《おも》変《かは》り、人と世を
呪《のろ》ふにか、すすりなき、うめきごゑ。
灰色《はひいろ》の暗《くら》き壁、見るはただ
恐ろしき一面《いちめん》の壁の色。
悪業《あくごふ》の終《をは》りたる
時に、ふとわれの手は
物|握《にぎ》るかたちして見出《みいだ》さる。
ながむれば埴《はに》あらず、鏝《こて》もなし。
ただ暗き壁の面《おも》冷々《ひえびえ》と、
うは湿《しめ》り、一点《いつてん》の血ぞ光る。
前《さき》の世の恋か、なほ
骨髄《こつずゐ》に沁みわたる
この怨恨《うらみ》、この呪咀《のろひ》、まざまざと
人ひとり幻影《まぼろし》に殺したる。
灰色《はひいろ》の暗《くら》き壁、見るはただ
恐ろしき一面《いちめん》の壁の色《いろ》。
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